消費の構造(1)

食料と消費財

前回構想したように、「経済システム」の最低限の設定として食料と消費財*1を考えることにする。この経済の中の住民はこれらを消費するし、「これらを消費することを目的に」生産その他の活動を決定する。これがこのシステムの根幹となる。食料と消費財は単に「別種の商品」であるだけではなくて、次のような重要な相違がある。

  • 食料は1人の住民によって一定水準以上には消費されないが、消費財は「あればあるだけ望ましい」*2
  • 消費財はなくても「不愉快」なくらいであるが、食料が決定的に足りない場合、これは飢餓を招く。

そういうわけで、消費の構造に関する最初の案として次のようなものを考える。ある個人の所得水準  I 、食料価格  p_F消費財価格  p_C を所与とすると、 その個人の消費量は
 I \leq p_F のとき


F = \dfrac{I}{p_F}, C = 0

 I > p_F のとき


F = 1, C = \dfrac{I - p_F}{p_C}

となる。これは数式を書くほどでもないが、要するに個人の行動は「1単位の食料を消費できるようになるまでは所得をすべて食料に振り向ける」「1単位の食料を消費できるようになったなら、残りの所得はすべて消費財に割り当てられる」という2つのルールにしたがうということである*3。なお、消費財を価格を計測するための基準(ニュメレール)として採用すると、上記の数式から  p_C = 1 が消えてさらに分かりやすくなる。
もちろん、上記のような基準で決定される個人の行動をすべてシミュレートするためには各個人の所得がすべて必要であるということになるが、各「ムラ」ごとに所属する個人の所得は一意に定まるような仕組みを採用するので、個人の数だけ所得を考えるようなことにはならない。

食料不足ー飢餓

ある個人の所得が1単位の食料を消費するに十分な場合、その個人の「食欲」は満たされていることになる。逆にその個人の所得が食料価格に満たず、1単位の食料を消費できない場合は「飢餓」が起きているということになる。よくある設定の場合、住民は食料がある限り「満量」(この場合1単位)の食料を消費し、備蓄食料を全部食い尽くした時点で大騒ぎを起こすが、このシステムではもう少し「段階的な」変化が起きる。まず、食料が何らかの理由で供給不足になると、食料価格が上昇し、各個人の所得が食料を「満量」買うために不十分になる。すると、所得が足りなくなった各個人は食料消費を控えるようになるため、食料の需要が低下する。一方、食料の供給者(農村)は食料価格が上昇したことを受けて食料の市場への供給量を増やす。その結果、ある段階で食料の需要と供給が釣り合い、食料の需給は(各個人が「満量」消費することはできない状態で)落ち着く。
食料が「満量」消費できない状態になっている場合は「飢餓」が起き、人口が減少したり、食料を求める住民の暴動その他の悪いイベントが生じたりする。この手のイベントの「強度」も食料がどの程度不足しているかによって変化させれば、「昨日まで何も起きていなかったのにいきなり暴動で国が滅ぶ」系の大事故も防ぐことができるであろう。プレイヤーは食料がちょっと足りなくなった時点で介入できるし、市場システム自体が備蓄食料が「食い尽くされる」以前の段階で食料需給を安定させる方向に反応することは上述した通りである。

問題点

ところで、上述した食料&消費財の需要システムには1つ欠陥がある。所得が食料1単位を消費するために必要な水準を下回る場合、この個人は消費財を全く需要しなくなる*4。したがって、消費財の価値で測った食料の価値は  \infty ということになってしまう。この状況がこのシステム内のすべての個人について満たされるならば(食料が経済システムの中のあらゆる場所で足りていないなら)、食料の価格はいくらでも上昇し続けることになるし、消費財の生産者(前回の図では「工房」の住民)は究極的には所得を全く得られないことになってしまう。これは、システムの安定性を損ねる危険性がある。次回はこの点について検討する。

*1:前回は「衣類」と呼んでいたが、衣類に固定して考えるのはいろいろと問題がありそうなので、まとめて「消費財」と呼ぶことにする。

*2:もちろん、豊かな経済であれば食料に対する消費額も多くなるだろうと思われるが、そのような「贅沢な食糧」は消費財に含まれるものとして考えることにする。

*3:経済学のモデルでは最初に「効用関数」を設定し、その効用を最大化するための消費を計算した後で上記のような形の「需要関数」が導かれる。ここで書かれた需要関数も背後にはこのような効用最大化が存在すると考えることができる。

*4:経済学的に言えば、消費財の限界効用がゼロになる。