経済システム

コンセプト

経済シミュレーション系のゲームは、基本的に「何かをして、お金を稼いで、稼いだお金でまた何かをする」というシステムになっている。ゲームの目的が明確になるし、都市開発シムのような「外からカネが入ってくる」ことを正当化できるゲームであればそれでもかまわないだろう。しかしながら、一国経済全体をシミュレートするゲームを作る際の基礎的な仕組みとしてこのような「何かをすれば、それだけでお金が生えてくる」形式を採用することにはどうも根本的に問題があるのではないかとずっと感じている。(外部との貿易を考慮しなければ)一国経済において意味があるのは食料や商品などの「現物」だけで、「お金」というのはそれらの価値の比率を表示するためのものでしかないというのが本質ではないだろうか。つまり、一国経済全体を統括するプレイヤーが目標とすべきなのは、その国民がどれくらい「モノ」を消費でき、豊かな生活を享受しているかであって、「国庫の中に入っているお金」という目盛りを押し上げることではないのではないか。
また、「何かをするとカネが生まれる」経済シムの問題点として、どうしても開発終盤になると「カネ余り」の問題が生じる。使い道のなくなった「資金」がプレイヤーの財布の中にうずたかく積もっている光景は、このブログを読んでいる方なら誰しも一度は経験したことがあるのではないだろうか。この問題も、ひとえに「何かをすると、何でかわからないけど無から『現金』が生成される」ことに由来するように思われる。要するに、無から金が生まれることがそもそも一国経済をシミュレーションするための設定として妥当ではないのではないか、ということである。

経済システムの構想

経済システム

経済シムの中の「住民」のニーズとしてどれくらいの範囲のものを採用するかは要検討だが、とりあえず一番単純でそれらしい「衣食住」を採用することにしてみる。人々は家に住んで、メシを食い、服を着る。これらを満たすための最低限の設定として、食料(と綿)を生産する農村、綿から衣類を生産する工房、木材を生産する林村、木材から住宅(と職場)を生産する大工の4種類の職場が設定される。農村と林村は中間投入財を必要としないので第一次産業、工房と大工はそれぞれ綿、木材を中間投入財として消費するので第二次産業というわけである。
各職場は居住地を兼ねている(「通勤」という概念はここでは考えていない)。例えば農村に住む住民は全員農家として働き、食料と綿を生産する。一方で、農村の住民だからといって服を着ないわけでもないし、家が要らないわけでもないので、市場に食料を売った後でその所得に応じて食料・衣類・住宅を購入することになる。そのような挙動を実現するために、経済システムの中央には「市場」が存在していなければならない。この「市場をハブとして周辺に職場を兼ねたムラが広がっている」という形を経済システムの基礎としたい。
将来的には1人のプレイヤー(国家)が複数の都市を管理し都市間で交易が行われるだとか、他のプレイヤーの都市と貿易を行うだとかいったより広域の経済圏についても設計をしていきたいところであるが、とりあえず経済システムの一番基礎的なセッティングはこの「衣食住を必要とする住民、特定の物資を生産するための職場、それらの取引のための市場」ということになる。この中には「カネ」という概念は(取引のための物資間の価格比という形以外では)存在しないし、住民が豊かになれば最終的には住民が物資を消費する量も増える*1ので、モノが「余る」ことはないということになる。

市場システム?

この手の設計が経済シムであまり試みられてこなかったのは、おそらく「市場」のシステムの設計が難しいからではないだろうか。需給に合わせて価格を調整する仕組みをうまく設計できなければ、例えば市場にある食料を全部食いつぶして飢餓が起きるまで食料価格が不適切に「安い」ままとどまっているとか、そういうことが起きそうに思われる。これを解決できるような市場システムはこれから考えるが、1つ参考になりそうなのは(もうなくなってしまったが)箱庭諸島海戦(hakojoyや共有箱庭諸島の系列)における「豪華客船タイタニック」の仕様だと考えている。
箱庭海戦は食料と資金しか物資がなかったが、各島の備蓄食料と備蓄資金の比率を比較して、相対的に備蓄の多い物資の価値が低くなるように食料価格を(食料1万トン当たりの価格という形で)決定していた。A島がB島に「タイタニック」を派遣すると、B島の食料レートがA島のそれより安ければ一定量の食料を買い、高ければ売るという形で取引を行う。結果、どちらの場合でも食料の余っている島から足りない島に食料が移動して、両島の食料備蓄は平準化される方向に動く。なお、自動的な市場システムに考えられる「事故」の一例として、ある島で食料がちょっと安くなった瞬間にすべての食料が外国に自動的に買い取られてしまい、次のターンに価格調整が行われるのに間に合わず飢餓が起きる、というようなケースも考えられる。箱庭海戦の「タイタニック」は1隻当たりの食料取引量はそれほど多くなく、1隻1隻の取引ごとに食料レートが再計算される仕様になっていたようであった*2ため、最初の数隻が食料を買い取った時点でその島のレートが上がる、という形でこのような「価格調整が間に合わない」事故を防ぐことができていた。これはきわめて単純な仕組みであるが、プレイヤーが介入しなくても市場がきちんと回るような形になっており、箱庭諸島における「市場システム」の1つの成功例と言えるではないだろうか。ちなみに、少額の取引ごとに市場価格が反応して、「安い瞬間に買い占める」ことができないような仕組みはStellarisの市場システムにも採用されているようであったが、取引そのものは自動ではなくプレイヤーが命令を出す必要があったように思う。
上記のような「成功例」を参考にしながら、「機能する」市場システムを作成していくことを当面の経済システム設計の目標としたい。

*1:ただし、所得が10倍になったからといって食料の消費が10倍になったり住む家の広さが10倍になったりするとは考えられないので、より豊かな経済は最後の1つ(「衣類」)の消費に次第に重みをシフトさせていくと考えられる。その意味で、衣類は食事や住居といった「生きるための必需品」以外の商品全般を代表しているとも考えられるので、「商品」といったより抽象的な表現に改めるべきかもしれない。

*2:直接仕様を確認したわけではないが、同じターン中に異なるレートで食料が取引されるのは頻繁に見ることができた。